私たちの髪の毛は、ただ闇雲に生えているわけではなく、体内時計やホルモンバランスと密接に連動して成長を続けています。睡眠不足が続くと髪が抜ける、あるいは薄くなると言われる最大の理由は、睡眠中に分泌される成長ホルモンの不足にあります。成長ホルモンは、細胞の修復や再生を司る極めて重要な物質であり、毛髪の主成分であるタンパク質の合成を強力にサポートしています。特に、眠りについてからの最初の3時間に訪れる深いノンレム睡眠の間に、この成長ホルモンは集中的に分泌されます。しかし、睡眠時間が短かったり、眠りの質が低かったりすると、この黄金の時間が十分に確保されず、毛母細胞の活動が停滞してしまいます。その結果、髪は細くなり、本来の寿命を全うする前に抜け落ちてしまうのです。さらに、睡眠不足は自律神経の乱れを直結させます。人間は活動時には交感神経が、休息時には副交感神経が優位になりますが、慢性的な寝不足状態では常に交感神経が昂ぶったままになります。交感神経の過剰な働きは、全身の血管を収縮させ、特に末端組織である頭皮への血流を劇的に悪化させます。毛根に必要な栄養分や酸素はすべて血液によって運ばれるため、血流が滞ることは髪にとって致命的な栄養失調を意味します。また、睡眠不足によるストレスは体内の亜鉛を大量に消費します。亜鉛は髪の生成に不可欠なミネラルであり、これが不足すると新しい髪が作られないばかりか、髪のハリやコシが失われていきます。このように、睡眠不足はホルモン、自律神経、栄養代謝という3つの側面から、髪の健康を根底から破壊していくのです。現代社会において1日6時間から7時間の睡眠を確保することは容易ではありませんが、薄毛を未然に防ぎ、健やかな髪を維持するためには、睡眠を単なる休息ではなく、最強の育毛ケアとして位置づける必要があります。睡眠不足を放置することは、自ら髪の寿命を縮めていることに他ならないという科学的な事実を、私たちは重く受け止めるべきでしょう。
睡眠不足とはげるリスクの科学的根拠